2022年1月

今まで経験したことのない胸の痛み ―DIDO時間-

ある日曜日の診療は、はたして救急外来みたいになりました。心筋梗塞はカテーテル治療までの時間が勝負です。病院のドアを入ってからカテーテル(バルーン)治療までのDTB(Door To Balloon)時間を90分以内にすると、心臓のダメージが少なくてすみます。すでに日本のカテーテル治療技術はすぐれていますから、いかに治療のできない病院での滞在時間を短くするかが、次の一手です。病院のドアから入ってドアからでるDIDO(door-in to door-out time)時間と呼びます。開業医はすぐ心電図をとって救急車を呼べということです。市内なら救急車に乗ってしまえば大概15分以内で緊急治療ができる病院へ着けます。ところが、日本人は痛みを我慢しがちです。さらにコロナ禍になって、心筋梗塞になってから受診までの時間が、2時間台から4時間に伸びてしまいました。いくらDTB時間やDIDO時間を短くしても、病院へ来る前の時間が長ければ、治療効果が減ってしまします。兎にも角にも、今まで経験したことがない胸痛が15分続くときは救急車を呼んでください。DHB(できるだけ早く病院へ)です。

心当たりのない体の片側の痛み ―そこに湿布を貼る前に―

腰痛だと思って湿布を貼り、ぶつぶつができても湿布かぶれだと思い込んでいた人がいます。

帯状疱疹の初期は、皮疹が出る前に痛みだけが数日間続くことがあります。2014年に水痘ワクチンが定期接種となってから、水痘ウイルスに出会って免疫が刺激される(ブースター効果)こともなく、コロナ禍のストレスも加わり、若年者(※)にも帯状疱疹が増えている印象があります。早期発見・早期治療が帯状疱疹後神経痛を防ぐポイントにもなります。90%の日本人は、水痘ウイルスを体のどこかの神経節に持っていますから、心当たりのない体の片側の痛みが出たときは、皮膚をよく見て、異常があればすぐ診察を受けましょう。

(※)アメリカで実施されていて日本で実施されていない「大人の定期予防接種」には、破傷風、百日咳、麻疹(はしか)、流行性耳下腺炎(おたふく)、子宮頸がん等(ヒトパピローマウイルス)、帯状疱疹などがあります。

若い人にしか起きない胸の痛み

〇Tietze(ティーツェ)症候群 (図:

若い成人男女にみられる胸痛です。1921年にドイツのティーツェTietzeによって報告されました。ですから昔からある疾患ですが有名ではありません。一般に第2~3肋軟骨部分を押すと痛いので、痛い場所を指で示すことができます。1か所のことが多いです。他の病気がないことを検査で確認しますが、多くは自然に軽快します。本人にとっては、心臓の痛みかもしれないと不安なわけですから、ちゃんと病名があると知ることで逆に安心できます。ただ、稀に慢性化したり他の疾患の初期症状のこともあるので、数か月も症状が続くのならば再診してください。

〇precordial catch (前胸部キャッチ)症候群 (図:

胸の痛みを訴える子供の多くがこの疾患といわれています。突然、左前胸部に刺すような痛みが数十秒から3分ほど起こることが典型的です。安静時に起こりやすく、息を吸った時に痛みが強くなったりもします。押しても痛くはありません。姿勢が悪いことが影響しているといわれていますが、正確な原因は分かっていません。自然に治る病気なので様子をみることになります。