2026年8月

外科医の利き手

平成初めのころ、心臓外科医と言っても、自分らで術前・術後のカテーテル検査や心エコー検査を行っていました。今は主に循環器内科医や技師が行っている検査です。外科医の強みは、心エコーでみた所見を肉眼で確認できることで、またそのように心がけるように指導もされました。心疾患は、画像や血行動態から診断することが多いので、今もこの経験が生きている気がします。測定値ではなくて動きの感覚(印象)です。一方、皮膚科は病変を表現する用語の定義がしっかりと決まっています。循環器内科と皮膚科の診療を行うことは、思い切って言えば、右脳、左脳を使いわける感覚なのかもしれません。心疾患では左右を意識することはあまりありませんが、皮膚疾患では困ったことが多いです。一番の問題は左右で、患者がうつぶせになるとこれが混乱します。その理由は、私が左利きであることが原因だと思っています。左利きを意識する場面は少なくありませんでした。チェロを弾きたくて入部した大学のオケで左利きのチェロはないかと尋ねると、隣にいる奏者と弓がぶつかるから無理だと言われました。医者になって、右胸心の心臓手術のときに左利きの方が有利だと提案したのですが、人工心肺の配置も逆にするのかと上司からたしなめられました。心臓手術はあるがままの位置で行うことが多く、縫いやすい方向に臓器の向きを変えられません。ですから左利きの方がやりやすい場面があります。執刀医は患者の右側に立ちます。大動脈弁は頭側(術者の左側)を向いているため、大動脈弁の手術では左手の方が針の刺入が自然な角度になりやすくなります。また僧帽弁置換術では、左利きの方が有利な場面が多いといわれています。こんなデータもあります。心臓血管外科医の10%は左利きですが、左利き心臓外科医の30%は右手で手術をしています。近年になって、欧州では左利きの心臓外科医のためだけの研修プログラムが立ち上がって、助手との連携などを実践的に学ぶプログラムが始まっているそうです。さらにロボット支援手術も普通に行われる時代になりました。外科医にとって利き手は関係ない時代がもう到来している気がします。